くぬ前(めえ)、ある病院(びょうい)ぬんかい、うゑえかん人(ちゅ)、見舞(みいめえ)しいが行(い)ちゃるばすぬ話どぅやいびいる。
 うゑえんかん人お、年寄(とぅす)いらあしく、物(むぬ)食(か)むしぬ、鈍(に)いさぬ、自一人(どぅうちゅい)小(ぐぁあ)、まかねえ所(どぅくる)於(をぅ)んかい、残(ぬく)てぃ、食むし、うみはまとおびいたん。
 彼(うり)がすぐ側(すば)んかい、車椅子(くるまいい)んかい、座(い)っちょおる婆前(はあめえ)ぬめんせえいびいたん。

 ゑえかん人んかい、我(わあ)が後(くさ)あから寄(ゆ)てぃ、「〇〇やっちい、来(ち)ゃんどう」んでぃち、合図(いぇえじ)さがなあ、うぬっ人ぬ肩(かた)、叩(たた)ちゃびたん。
 
 ゑえかん人お、とぅん返(けえ)てぃ、いれえやびたしが、隣(とぅない)んかい、めんせえびいたる婆前ぬ、我(わん)目詰(みいち)きやあに、「いぇえ、兄さん、いちゃんだん、人触(さあ)いぬむぬおあらんどう」んでぃ、美(ちゅ)らうちなあぐちし、みせえびたん。
「あいびらんよう、我ゑえかん人どぅやみせえるむんぬ」
 彼女(うり)が美らうちなあぐち聞(ち)ち、我ねえいしょうさぬ、うちなあぐしし、いれえやびたん。いふぃえ、かにえ、外(は)んでぃてえ、居(をぅ)らんがあらんでぃ、心配(しわ)あやいびたしが、婆前ぬ笑顔(われえがう)なやびいたくとぅ、片心(かたくくる)許(ゆる)ゆるさびたん。

 うぬ婆前とぅん話しい欲(ぶ)しゃああいびいたしが、女(ゐなぐ)看護師ぬ来(ち)ゃあに、彼女(うり)が足(ふぃさ、ひさ)、車椅子ぬ足うっちゃき所(どぅくる)から、足外(はん)すんちがやいびいたらあ、彼女が足、触(さあ)いしとぅまじゅん、婆前や、癪(しゃく)出(ん)じやあに、看護師呪(ぬれ)え懲(く)るさびん。

「何(ぬ)が汝(いゃあ)や、徒(いちゃんだ)ん、人(ちゅ)ぬ足、触いる、ひい!」
 やいびいしが、うちなあぐち分(わ)からん、若(わか)女看護師え、構(かま)あんよいう、婆前足、掴(かち)みてぃ、足うっちゃき所、畳(たく)ばびたん。諸足(むるびしゃ、むるびさ)垂(た)い提(さ)ぎらってぃ、婆前や、なあ、くさみち、
「いぇえっさ、分(わ)かいみ」んでぃ、大叫(うふあ)びいさびたん。
 肝苦(ちむぐる)しいむん、看護師え、「ワカメですか」んでぃち、けえ、いれえやびたん。あんないねえ、なあ、婆前ごう口(ぐち)ぬ止むる事お無(ね)えやびらんたん。
 一(ちゅ)てえ小(ぐぁあ)しいねえ、看護師え、なあ、婆前とぅ、問答(むんどう)すし、止みやあに、まあがらんかい去(は)やびたん。

 あんさびたれえ、うぬ婆前や、我(わん)ぬんかい、向(ん)かてぃ、あばあさあばあゆんたくしい始(はじ)みやびたん。二人(たい)居(をぅ)る男(ゐきが)ん子(ぐぁ)ぬ自慢話(じまんばなし)やっぱてぃすしぬ、でえじな、いしょうさる風儀(ふうじ)やいびいたん。「自慢のおならんしが」んでぃ言(いゃ)がしいなあ、自(どぅう)や、さむれえぬ子孫(くぁんまが)やんでぃんみせえやびたん。やいびいしが、我が大(うふ)どぅん舞(もう)いさびたせえ、うぬ自慢(じま)なあ婆前が百一(ひゃあくいち)なゆんでぃ、聞(ち)ゅあるばすやいびいたん。
 やくとぅどぅ、あんし、美(ちゅ)らうちなあぐちんするむんやんでぃ思(うむ)たるしいじやしびいん。誰(たあ)とぅん、誰とぅん、ごうぐちひゃあぐちさい、自慢話すしん、長生(まがい)ちちする力(ちから)とぅがなとおいびいらあ…。

【語句】
くぬ前、ある病院ぬんかい、うゑえかん人=この前、ある病院に親戚の人を
見舞しいが行ぢゃるばすぬ話どぅやいびいる=見舞いしに行ったときの話なのです。非丁寧文「~話どぅやる」。「話でえびる」とも。
うゑえんかん人お、年寄いらあしく、物食むしぬ=親戚の人は年なので、食事するのが
鈍いさぬ、自一人小、まかねえ所於んかい=遅いので、自分一人食堂で
残てぃ、食むし、うみはまとおびいたん=残って食事を頑張っていました。非丁寧文「~うみはまとおたん」。
彼がすぐ側んかい、車椅子んかい=彼の側には車いすに
座っちょおる婆前ぬめんせえいびいたん=腰かけたお婆さんがいらした。非敬語「~婆前う居たん」。
ゑえかん人んかい、我が後あから寄てぃ=親戚の人に私が後から近寄り
「〇〇やっちい、来ゃんどう」んでぃち=「○○兄さん、来たよ」と、
合図さがなあ、うぬっ人ぬ肩、叩ちゃびたん=声をかけながら、その人の肩を叩きました。非丁寧文「~肩叩ちゃん」。
ゑえかん人お、とぅん返てぃ、いれえやびたしが=親戚の人は振りむいて、返事をしたのですが、非丁寧文「~いれえたしが」。
隣んかい、めんせえびいたる婆前ぬ、我目詰きやあに=隣にいらしたお婆さんが私を睨みつけて、非敬語「隣んんかい居たる~」。
「いぇえ、兄さん、いちゃんだん、人触いぬむぬおあらんどう」=「おい、兄さん、むやみに人を触るもんじゃないよ」
んでぃ、美らうちなあぐちし、みせえびたん=と、きれいな沖縄語で話されました。非敬語「~言ゃびたん」。
「あいびらんよう、我ゑえかん人どぅやみせえるむんぬ」=「違いますよ、私の親戚の人でいらっしゃるのに」。非敬語「~人どぅやるむんぬ」。
彼女が美らうちなあぐち聞ち、我ねえいしょうさぬ=彼女のきれいな沖縄語を聞いて私は、嬉しくて、
うちなあぐしし、いれえやびたん=沖縄語で返事しました。非丁寧文「~いれえたん」。
いふぃえ、かにえ、外んでぃてえ、居らんがあらんでぃ=少しボケていないかと
心配あやいびたしが、婆前ぬ笑顔なやびいたくとぅ=気にしましたが、お婆さんが笑顔になりましたので、非丁寧文「心配あやたしが~」、「~笑顔なたくとぅ」。
片心許ゆるさびたん=一安心しました。非丁寧文「~ゆるちゃん」。
うぬ婆前とぅん話しい欲しゃああいびいたしが=そのお婆さんとも会話をしたかったのですが、非丁寧文「~欲しゃあ、あたしが」。
女看護師ぬ来ゃあに、彼女が足、車椅子ぬ足うっちゃき所から=女性看護師が来て、彼女の足を車椅子の足置きから
足外すんちがやいびいたらあ、彼女が足=足を外そうとでしたのか、彼女の足を、非丁寧文「~すんちがやたらあ」。
触いしとぅまじゅん婆前や、癪出じやあに=触る同時にお婆さんは、怒り出して、
看護師呪え懲るさびん=看護師を叱りつけました。非丁寧文「~懲るちゃん」。
「何が汝や、徒ん、人ぬ足、触いる、ひい!」=「なぜ君は、むやみに、人の足を触るのか、ええ」
やいびいしが、うちなあぐち分からん、若女看護師え=ですが、沖縄語を解しない若い女性看護師は、非丁寧文「やしが~」。
構あんよいう、婆前足、掴みてぃ=かまわず、お婆さんの足を掴んで、
足うっちゃき所、畳ばびたん=足を置く台を畳ました。非丁寧文「~畳(たく)だん」。
諸足垂い提ぎらってぃ=両足をぶらさげられて、
婆前や、なあ、くさみち=お婆さんは、もう、怒って、
「いぇえっさ、分かいみ」んでぃ、大叫びいさびたん=「おいこら、分かるか」と大声で叫びました。非丁寧文「~大叫びいさん」。
肝苦しいむん、看護師え、「ワカメですか」=可哀想に看護師は、「ワカメですか」
んでぃち、けえ、いれえやびたん=と返事してしまいました。非丁寧文「~いれえたん」。
あんないねえ、なあ、婆前ごう口ぬ=そうなると、もう、お婆さんの文句は、
止むる事お無えやびらんたん=とどまるところを知りませんでした。非丁寧文「~無えらんたん」。
一てえ小しいねえ、看護師え、なあ、婆前とぅ=しばらくしたら、看護師はもうお婆さんと
問答すし、止みやあに、まあがらんかい去やびたん=問答するのを止め、どこかに行ってしまいました。非丁寧文「~去(は)ちゃん」。
あんさびたれえ、うぬ婆前や、我ぬんかい、向かてぃ=そうしましたら、そのお婆さんは私に向かって、非丁寧文「あんされえ、~」。
あばあさあばあゆんたくしい始みやびたん=ぺちゃくちゃお喋りを始めました。非丁寧文「~始みたん」。
二人居る男ん子ぬ自慢話やっぱてぃすゆしぬ=二人いる息子の自慢話を頑張ってすることが、
でえじな、いしょうさる風儀やいびいたん=大変うれしい様子でした。非丁寧文「~風儀やたん」。
「自慢のおならんしが」んでぃ言がしいなあ=「自慢はできないけど」と言いながらも、
自や、さむれえぬ子孫やんでぃん、みせえやびたん=自分は士族の子孫であるともおっしゃいました。非尊敬文「~言(ゆ)たん」。
やいびいしが、我が大どぅん舞いさびたせえ=ですが、私が、仰天したのは、非丁寧文「やしが~」、「~させえ」。
うぬ自慢なあ婆前が百一なゆんでぃ=その自慢好きのお婆さんが百一歳なると、
聞ちゃるばすやいびいたん=聞いたときでした。非丁寧文「~すやたん」。
やくとぅどぅ、あんし、美らうちなあぐちんするむんやんでぃ=だからこそ、こんなにもきれいな沖縄語をするのだろうと、
思たるしいじやしびいん=思った次第です。非丁寧文「~しいじやん」。
誰とぅん、誰とぅん、ごうぐちひゃあぐちさい=誰彼となく、文句を言ったり、
自慢話すしん、長生ちちする力とぅがなとおいびいらあ…=自慢話をするのも、長生きするエネルギーとなるのでしょうか…。非丁寧文「~なとおらあ」。