ムーチー(餅)ぬ由来(ゆれえ)(註)にちいてえ、うちなあんちゅやれえ、大概(てえげえ)ぬ人(ちゅ)ぬ知っちょおる筈(はじ)やいびいしが、我(わあ)が小(くう)さいにいや、うぬ由来話や直(のお)っさてぃる聞(ち)かさっとおいびいたる。
 小学校四年(しょうぐぁっこうゆにん)ぬばす、担任ぬ女先生(ゐなぐしんしい)から、初(はじ)みてぃ、ムーチーぬ由来話、聞(ち)かっさたるむぬやいびいしが、女(ゐなぐ)ぬ陰(ほう)ぬ力さあに、鬼(うに)殺(くる)ちゃんでぃ言る話や大人(うふっちゅ)成てぃからどぅ分かやびたる。

 うん如(ぐとぅ)うさあに、童話んでぃ言しえ、異風な話ん、恐(うとぅる)さる話ん、大概や、童(わらび)ん達(ちゃあ)が取(とぅ)い受き易っさんねえし、作(つく)い直(のお)ちぇえるむんどぅやんでぃち言ゃっとおいびいしが、うりえ、なあ仕方あ無(ね)えらんでぃ思(うみ)やびいん。

 やしが、童話ぬまま、うっちゃん投ぎやあに、実にぬ話ぬ伝(ちた)わらんでえ、ゆくん異風なあやいびいん。
【註】鬼餅由来ぬあらあらぬ伝え話
 かあま昔、首里金城(しゅいかなぐしく)んかい兄妹(うとぅざんだ)ぬ居(をぅ)いびいたん。ある日、兄(しいざ)あ、大里(うふざとぅ)ぬ山んかい移(うち)やあに、鬼とぅ成てぃ、人喰(ちゅくぁ)てぃ暮らちょおいびいたん。
 うぬ話聞ちゃる妹(うとぅざ)や、兄殺(しいざくる)さんでぃさあに、餅しこうてぃ、兄ぬはたんかい行(い)ちゃびたん。妹や兄が食むる餅んかいや、針金(ちんだ)入りてぃ、自どぅう)が食(か)むる餅や普通に作やびたん。
 兄や妹ぬ呉(くぃ)いたる餅や、固(くふぁ)さぬ食みゆうさびらんたしが、妹や、旨(まあ)さぎさし、食どおびいたん。
 人ぬ骨迄(ふにまでぃ)ん、うちゅ喰(くぁ)ゆるあたいぬ歯(はあ)、持(む)っちょおんでぃ思(うむ)とおたる兄や、驚(うどぅる)ち、妹んかい尋(たじ)にたん。
「汝(いやあ)口え、何(ぬう)さる口が」
「我(わあ)口え、何やてぃん、食むる口」
 あんし、下腹(しちゃわた)開きてぃ見(み)してぃ、
「あんしまた、下腸ぬ口や、鬼喰(くぃ)い殺(くる)する口」
 鬼ぬ兄や、魂(たまし)ぬ抜(ぬ)ぎるか、とぅんもうてぃ、後(あとぅ)しんちゃあし、うぬまま、崖(はんた)から、落(う)てぃてぃ、けえ死じゃんでぃんでぃぬ事やいびいん。
 あんし、鬼魔物(うにまじむん)、退(ぬ)きゆる為(たみ)なかい、毎年(めえにん)、餅しこうてぃ、食むぬ風儀(ふうじ)ぬなたるばすやいびいん。

【語句】
ムーチー(餅)ぬ由来にちいてえ=ムーチーの由来については。「ムーチー」沖縄の行事で、旧暦の12月8日(与勝地方では12月1日)に行われる。
うちなあんちゅやれえ=沖縄人であれば。
大概ぬ人ぬ知っちょおる筈やいびいしが=大抵に人が知っているはずですが。非丁寧文は「~やしが」。
我が小さいにいや=私が子どものころは。
うぬ由来話や直っさてぃる=その由来話は曲げられて。「る」は強調を表わす助詞「どぅ」の清音。
聞かさっとおいびいたる=聞かされていました。前の強調助詞「る」を受けて、連体形で結んでいる。非丁寧文は「~とおたる」。
小学校四年ぬばす=小学校四年のとき。
担任ぬ女先生から=担任の女先生から。
初みてぃ、ムーチーぬ由来話=初めて、ムーチーの由来を。話し言葉では「を」に相当する助詞は略される。
聞かっさたるむぬやいびいしが=聞かされたものですが。非丁寧文は「~やしが」。
女ぬ陰ぬ力さあに=女陰の力で。「陰」は「ほうみ」ともいう。
鬼殺ちゃんでぃ言る話や=鬼を殺したという話は。
大人成てぃからどぅ分かやびたる=大人になってから知りました。非丁寧文は「~分かたる」。前の強調助詞「どぅ」を受けて連体形で結ぶ。
うん如うさあに=このようにして。
童話んでぃ言しえ=童話というものは。
異風な話ん、恐さる話ん=変な話も、恐い話も。
大概や、童ん達が=大抵は、子どもたちが。
取い受き易っさんねえし=受け入れやすいように。
作い直ちぇえるむんどぅやんでぃち=作り変えたものであると。「どぅ」は強調助詞。
言ゃっとおいびいしが=言われていますが。非丁寧文は「言ゃっとおしが」。
うりえ、なあ仕方あ無えらんでぃ=それは、もう仕方が無いと。
思やびいん=思います。非丁寧文は「思ゆん」。
やしが、童話ぬまま=だが、童話のまま。
うっちゃん投ぎやあに=放置して。
実にぬ話ぬ伝わらんでえ=真実の話が伝わらなければ。
ゆくん異風なあやいびいん=よけい、変な話です。非丁寧文は「~やん」。
鬼餅由来ぬあらあらぬ伝え話=鬼餅由来記のあらすじ。
かあま昔=ずっと昔。
首里金城んかい=首里金城に。(今の那覇市首里金城町)
兄妹ぬ居いびいたん=兄妹が居りました。非丁寧文は「~居たん」。
ある日、兄あ=ある日、兄は。
大里ぬ山んかい移やあに=大里の山に移り。
鬼とぅ成てぃ=鬼になって。
人喰てぃ暮らちょおいびいたん=人間を食べて暮らしていました。非丁寧文は「~暮らちょおたん」。
うぬ話聞ちゃる妹や=その話を聞いた妹は。
兄殺さんでぃさあに=兄を殺そうと。
餅しこうてぃ=餅を作り。「しこうてぃ」は「しこうゆん(準備する、(ごちそうや食べ物を)作る)」の補助連用形(接続態)。
兄ぬはたんかい行ちゃびたん=兄のところへ行きました。非丁寧文は「~行じゃん」。「兄ぬはた」は「兄ぬ所(とぅくる)」でもよい。
妹や兄が食むる餅んかいや=妹は兄が食べる餅には。
針金入りてぃ=針金をいれ。
自が食むる餅や=自分が食べる餅は。
普通に作やびたん=普通に作りました。非丁寧文は「~作たん」。
兄や妹ぬ呉いたる餅や=兄は妹が作った餅は。
固さぬ食みゆうさびらんたしが=固くて食べることができませんでしたが。非丁寧文は「食みゆうさんたしが」。
妹や、旨さぎさし=妹は美味しそうに。
食どおびいたん=食べていました。非丁寧文は「食どおたん」。
人ぬ骨迄ん=人の骨までも。
うちゅ喰ゆるあたいぬ歯=喰ってしまうほどの歯を。「うちゅ喰ゆん」で「喰ってしまう」の意味。「うち」は副詞と考えられるが、接頭辞という説もある。
持っちょおんでぃ=持っていると。
思とおたる兄や=思っていた兄は。
驚ち、妹んかい尋にたん=驚き妹に尋ねた。
汝口え、何さる口が=お前の口は、何たる口だ。「何さる」は「どれほどの」、「何と言う」の意味。「何さる者(や)が」は「何者だ」の意味となる。
我口え、何やてぃん、食むる口=私の口は何でも食べる口。
あんし=そして。
下腹開きてぃ見してぃ=下腹部を開いて見せて。
あんしまた=そしてまた。
下腸ぬ口や=下腹にある口は。ここでは女陰(魔物を撃退する力があると言われる)。
鬼喰い殺する口=鬼を食い殺す口。
鬼ぬ兄や=鬼の兄は。
魂ぬ抜ぎるか=魂が抜け落ちるほどに。
とぅんもうてぃ=驚き。
後しんちゃあし=後ずさりして。
うぬまま、崖から、落てぃてぃ=そのまま崖から落ちて。
けえ死じゃんでぃんでぃぬ事やいびいん=死んでしまったという事です。非丁寧文は「~事やん」。「けえ」は動詞の前に付く副詞で「~してしまう」を表わす。
あんし=そして。
鬼魔物、退きゆる為なかい=鬼魔物を撃退するために。
毎年、餅しこうてぃ=餅を作り。
食むぬ風儀ぬなたるばすやいびいん=食べる習慣が出来上がったわけです。